デザイナーの目線を、部屋に掛ける。 陶器・絵本・包装紙──生活のすみずみまでデザインした人が残した布だから、飾ると部屋の空気が変わり、そこに小さな物語が流れ始めます。
スティグ・リンドベリ|暮らしにウィンクを仕込んだ人
1916年、スウェーデン北部のウメオに生まれ、幼いころはピアニストを夢見ていました。14歳のときに指を負傷し音楽の道を断念。回復期に絵を描き始めたことが、のちに陶芸とテキスタイルの道を選ぶきっかけになりました。
美術工芸大学で学んだあと、陶器工場グスタフスベリに自ら押しかけて「雇えば工場に仕事を持ち込んでみせる」と豪語して採用されたという逸話もあります。1949年にはアートディレクターに就任し、陶器・ガラス・テキスタイル・広告・包装紙・絵本まで生活にまつわるあらゆるものをデザイン。モダニズムの時代に、合理性と遊び心を両立させたデザインを生み出しました。
学生のころからドローイングと装飾に情熱を注ぎ、やがてグスタフスベリで先達ウィルヘルム・コーゲに師事。量産と美の折り合いを学びつつ、日用品を「アートのほうへ半歩」近づける方法を自分流に磨き上げていきました。
素材やスケールの境界を越えて表現を探し続け、Konstfackで後進を育てた人。北欧モダンの黄金期を形づくった立役者であり、今も再生産されるデザインが多いのは「暮らしに小さな喜びを届ける」という姿勢が時代を越えて共感されるからです。大げさではなく、ふだんの生活の中にそっとウィンクを差し込むような感覚。それがリンドベリの布のいちばんの魅力です。
デザイン哲学
リンドベリの哲学は「暮らしにユーモアを」。器の縁にゆらぎを残し、包装紙に街の風景を描き、テキスタイルに童心を宿す──生活者が肩の力を抜き、部屋が笑う瞬間をつくることが、彼のデザインのゴールでした。
これから紹介する各柄には、リンドベリの人柄と哲学がさりげなく息づいています。「どの柄が正解か」ではなく、「いまの自分の暮らしに、どんな気分を招きたいか」。一枚の布の向こうにある、人柄と物語を想像しながら見てみてください。
Melodi(メロディ)──森で奏でる物語
木の枝に寄りかかる人、ぶら下がる人、楽器を奏でる人。よく見ると、ひとりひとりちがうポーズで「物語の途中」にいます。メロディという名前の通り、柄全体が一枚の楽譜のようにリズムよく構成されたテキスタイルです。
人柄×柄:人のしぐさや気持ちの動きをよく観察していた人。だれかのちょっとした癖や、笑い方の違いを面白がる目線が、そのまま布になっています。
小さなエピソード: 友人たちがギターを囲んで歌っているのを見て、「あの空気をそのまま捕まえたい」と帰ってすぐにスケッチを描いた、という話が残っています。歌っている人、聞き入っている人、空を見上げる人。その紙を見て、子どもが笑ったことがとても嬉しかったそうです。
使いこなし: 一枚の絵として楽しめる柄なので、タペストリーやファブリックパネルにぴったり。クッションカバーやバッグにすると、持ち歩ける「小さな物語」になります。リビングの一角やワークスペースに掛けると、忙しい日でも「まあ、いいか」と笑える余裕をくれる布です。
Bersa(ベルサ)──陶器の森が布へ
連なる葉は規則正しく見えて、よく見ると一枚ずつ表情が違う。食器づくりで培った「量産の中に手の気配を残す」という感覚が、そのまま布に移植された柄です。朝の光を受けると葉脈の陰影がやわらぎ、部屋に“緑陰(りょくいん)”を吊るしたような空気に。
人柄×柄:几帳面だけど遊び心を忘れない人。きっちり整えるだけでなく、「ちょっとだけゆらぎを残したい」と思うタイプだったと言われています。
小さなエピソード: 工場で同じ葉っぱの模様を何百枚も描く日、彼はときどき葉脈を少し太くしたり、形をわずかに変えたりしていたそうです。「気づいた人が、くすっと笑ってくれたらうれしいだろう?」と。
使いこなし: 白壁+木の家具に最強。キッチンはローマンシェード、リビングは二倍ヒダ。観葉植物が少ない部屋の“緑の補助線”にも。朝の光が差し込む窓辺に掛けると、「今日もよし」と深呼吸したくなるような布です。
Fruit Box(スペシャルレッド)──祝祭の箱をひらく
版画のような赤一色。果実の断面や種が軽やかに連なり、見るだけで体温が上がる祝祭ムード。敷いた瞬間に“今日は特別”のスイッチが入る、空気の演出家。
人柄×柄:包装紙や広告も手掛けたサービス精神の持ち主。「開ける前からうれしくなる箱」を考えるのが好きだった人でした。
小さなエピソード: パーティー用の包装紙をデザインしたとき、「包みを見ただけで、まだ中身を見ていないのにちょっと笑ってしまう。そんな図案にしたかった」と話していたと言われます。
コーデ: 白い器+乾いた木目でキリッと。壁掛けは大判パネルで赤を一点集中。ダイニングやキッチンにアクセントとして取り入れると、「今日は何か楽しいことをしようか」と話したくなるような布です。
Pottery(ポテリー)──アトリエの素描、そのまま
引きで見ると端正な幾何、寄ると線の揺らぎ。陶器の試作スケッチの“間”や“呼吸”が残ったまま、布の上に整列。近づくほど味が増すので、視点の移動がある空間に強い柄です。
人柄×柄:素材横断の遊びが得意な人。紙の上で形を試し、粘土で確かめ、また線に戻る。その行き来を楽しんでいたと言われています。
小さなエピソード: アトリエの棚には、完成品だけでなく“途中の器”がたくさん並んでいたそうです。「途中のかたちにも、ちゃんと居場所がある」と考えていたとか。
展示する感覚で: ファブリックパネルや細長い暖簾仕立てで“器の列”を演出。書斎やピアノ背面など、落ち着いて物事に向き合いたい場所に掛けると、静かで凛とした空気を作ってくれる布です。
Grazia Poca(グラツィアポカ)──夜更けの植物相
濃紺の野に白い線がのび、花や葉のあいだから顔の輪郭がひょっこり現れます。賑やかなのに静けさがあり、照明を落とした夜にいちばん映える柄です。
人柄×柄:ユーモアと詩心の両立。夜の静けさの中にも、小さなウィンクを忍ばせるのが好きだった人でした。
小さなエピソード: 夜遅くに窓を開けて、「真っ暗じゃなくて、ちゃんと色がある」と話していたというエピソードがあります。夜空の濃紺や、街の明かりのにじみ。その感覚がこの柄の色にも重なっています。
空間づくり: 寝室・読書コーナー・ピアノ背面など“音量を下げたい場所”に。照明を少し落としたとき、一日の終わりにそっと寄り添ってくれる布です。
暮らしに取り入れる小さな翻訳
カーテンにすれば朝の光が模様を通してやわらかく差し込み、クッションにすればソファが季節をまとうように。仕立てるも良し、掛けるも良し。暮らしに合わせて「今日はどの物語を飾ろうか」と選べる布です。
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よくあるご質問
初めての方や、生地を使うイメージがまだ固まっていなくても大丈夫です。
タペストリー・クッション・バッグなどの用途を伝えていただければ、 柄取りの目安もご提案します。
作品の仕上がり位置を意識したい場合は、 欲しい雰囲気(主役にしたい人物/密度/余白)をお伝えください。 現在のカット位置(反の状態)からご相談に応じ、 柄の出方を写真で共有しながら 「この配置なら作品が生きる」というポイントを一緒に考えます。 迷っている段階でも遠慮なくどうぞ。
・取り付け位置(天付/正面付)
・幅(レール端〜端)
・丈(レール下から床 or 窓台まで)
迷う場合は写真を送ってください。担当が最適寸法をご提案します。
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