マリメッコといえば、この柄です。欠かせない柄。ブランドの顔、マークのようなものだと思っています。
徳島で、マリメッコと北欧の生地を扱っています。
インテリアセンター山田 店長 山田
最初に見たのは、遠い昔です(笑)。
それでも思ったのは、こんな柄を描けるマイヤ・イソラはすごい、ということでした。
日本人の感覚では、この花の大きさと形は描けないと思います。もとは、いちばん大きいこのウニッコ(大柄)です。

いちばん特徴的なのは、下を向いている花です。
ふつう植物の柄は、どれも上に向かって伸びていくように描かれます。なのに、いちばん大きな花が下を向いている。不思議です。なんで下を向いているのか、いつも考えてしまいます。
生地を買われるお客様には「この大きな花が下を向いているのが、正しい上下です」とお伝えすることが多いです。
とはいえ、マリメッコの既製品のバッグなども、上下を気にしていないものがよくあります。そこまで気にしなくても大丈夫です。

花は、すき間をうめるように描かれています。それでも、ひとつ取り出してみると、ちゃんとウニッコなんです。
つながるように描かれた茎も、ひとつひとつの花にちゃんとつながっています。
バランス感覚がいい、というのか。シンプルな柄だからこそ、そう思います。

ウニッコは、フィンランド語でケシの花のことです。
ケシといえば、ちょっと危ない花じゃないですか。まあ、言うなれば薬になる花ですからね。ポピーといえば、かわいいんですけど。
見た目も、すぐに「ケシの花だ」とわかる人は少ないです。大きくて、力強くて、どこかよくわからない植物に見えます。
自分の部屋に何色を置くか、と聞かれたら。じつは、置いていません。店にたっぷりあるので(笑)。
わたしは、ヴィヒキルース派です。
お店で見ていると、お客様は二通りに分かれます。
マリメッコなら、やっぱりウニッコだよね、と選ばれる方。それから、あえてウニッコを外される方。
外される理由は、よくわかりません。マリメッコ好きの人とかぶるのがちょっと恥ずかしいのか、そこはわからないです。
この柄には「本来生まれるはずのなかった花」という話があります。
ウニッコはその8枚のうちの1枚です。大きなケシの花を画面いっぱいに、ただ咲かせた。それだけの柄です。
「作るな」と言われた花が、マリメッコの顔になった。そういう話は、なんだか元気が出ます。それに、ウニッコが生まれた年に、他にも7枚の花柄が生まれているという事実も気になります。その7枚は、あまり知られていません。
ウニッコをデザインしたマイヤ・イソラ(1927–2001)は、38年間でマリメッコに約500のデザインを提供したデザイナーです。19歳で娘を産んだのをきっかけに美術学校に入り、在学中にアルミ・ラティアに見出されました。
描き方も、少し変わっていました。床に座って、大きな筆で、大きな紙に。夜に描くことが多かったそうです。
こういう人が、3年後にウニッコを描きました。日常の何気ない瞬間に柄の種があって、それを見逃さない。旅を原動力にして、年に一度は世界各地に長期滞在しながらデザインを生み出し続けた。500枚という数は、そういう暮らし方の結果です。
そしてもう一つ、気になる話があります。マイヤの娘クリスティーナ、その娘エンマも、代々マリメッコのデザイナーになりました。ウニッコは今、三世代にわたって受け継がれている柄でもあります。
娘のクリスティーナは、ウニッコの新しい配色を作ってきた人です。小さなミニウニッコも、クリスティーナが手がけたものとされています。孫のエンマは、マリメッコの70周年(2021年)に、ウニッコを手で描き直した「マイセマ・ウニッコ(Maisema-Unikko)」を作りました。
母が描いた花を、娘と孫が、色や大きさを変えてつないでいく。それも、おもしろいところです。
ウニッコには3つのサイズがあります。大柄・中柄・小柄。同じケシの花なのに、大きさが変わるだけで部屋での印象がまったく違う。「自分に合うのはどれだろう」と考えるのも、この柄の楽しみの一つです。
名前がややこしいので、先に書いておきます。中柄が「ピエニウニッコ」、小柄が「ミニウニッコ」です。ピエニはフィンランド語で「小さい」、ミニは英語のミニ。どちらも小さいという意味なのに、ピエニのほうが大きい。ここはお店でもよく聞かれます。
色も増え続けています。1964年からいままでに、ウニッコの配色は100種類を超えました。
オリジナルのウニッコです。カーテンとして窓いっぱいに下げると、外からも分かります。どんな人が住んでいるか、柄だけで伝わる気がする。そのくらい存在感があります。
最初は「うちには強すぎるかな」と思うかもしれない。でも置いてみると、案外しっくりきます。個人的に、ウニッコの赤が一番好きです。マイヤ・イソラも、赤を好んで使った色の一つだったそうです。
ウニッコより一回り小さい花です。クッションカバーに仕立てて毎日目にするうちに、ある日ふと「この柄、やっぱりいいな」とあらためて思う瞬間が来ます。じわじわ好きになっていく、そういうサイズ感です。
カーテンにも、クッションにも、のれんにも使いやすい。一番バランスがいいサイズだと思っています。
同じウニッコの花が、小さくなるだけで印象がまるで変わります。ポーチを仕立てるとき、どこを切り取るか考えながらはさみを入れる。その作業が楽しい、という方が多いです。どこを切っても柄が顔を出す、というのがウニッコの面白さです。
ウニッコが好きで、でも小物に使いたい。ハンドメイドの最初の一枚に、よく選ばれます。
ウニッコは、ヘルシンキにあるマリメッコ自社の工場で刷られています。
刷り方はふたつあります。円筒の版をころがしながら生地を送っていく方法と、平らな版を生地の上に置いて色をのせる方法。どちらも、色は1色ずつ、順番に重ねていきます。
刷り終わった生地は、100度の蒸気にあてて色を止めて、洗って、乾かす。一枚の布になるまでに、それだけの手が入っています。
1色ずつ重ねるので、色と色の重なりがほんのわずかにずれることがあります。均一でないところを、そのまま残している。マリメッコ展では、この揺らぎを「完全なる不完全さ」と呼んで紹介していました。
ウニッコは、思いがけないところにも出てきます。
フィンエアーの飛行機は、青いウニッコをまとって長距離の空を飛んでいます。2012年からのことで、いまも現役です。
同じ2012年には、ウニッコ柄の熱気球がロサンゼルスとヘルシンキの空に上がりました。2020年と2021年には、バンコクの高架電車が、外も中もウニッコになっています。こちらは期間限定で、いまはもう走っていません。
2024年、ウニッコは60歳になりました。その年のはじめ、ヘルシンキの光の祭典で、アテネウム美術館の壁いっぱいにウニッコの光が映されました。
ウニッコに限らず、マリメッコの生地は映画やドラマの部屋にも出てきます。
アメリカのドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』では、主人公キャリーの書き机の前に、マリメッコのピンクの「タンツ(Tantsu=ダンス)」のカーテンが掛かっていました。いまは廃番の柄ですが、ドラマの部屋に今も残っています。映画『キューティ・ブロンド』(2001年)でも、主人公エルの寮の部屋のクッションやカーテンに、マリメッコの生地が使われています。
エルの部屋のほうは、どの柄だったのかまだ分かっていません。ご存じの方がいたら、ぜひ教えてください。
マリメッコそのものが主役の映画もあります。創業者アルミ・ラティアを描いた『ファブリックの女王』(日本公開2016年)と、ウニッコを描いたデザイナーの記録映画『マイヤ・イソラ 旅から生まれるデザイン』(日本公開2023年)です。
1964年に「作るな」と言われた花が、60年以上たった今も世界中の部屋にある。デザイナーの娘も、孫も、同じブランドでデザイナーになった。ウニッコという柄には、そういう時間が積み重なっています。
色によって、こんなに雰囲気が変わる。それが楽しいというか、おもしろいところです。
※ クリスティーナ・イソラとエンマ・イソラの話は、マリメッコ公式の柄の紹介(Maisema-Unikko)と、販売店の作家紹介によります。
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