うちの店は、マリメッコの生地が壁いっぱいに並んでいます。その並びの端に、ぜんぜん性格のちがう棚がひとつあります。ティルダ。ノルウェーで生まれた、小さな花の布です。
大きな柄の隣に置くと、はじめは目立ちません。ところが近づいてみると、指の先くらいの花が、すきまなく咲いている。しかも同じ柄が、色ちがいで何枚もある。遠目にはおとなしいのに、近づいた瞬間に急に情報量が増える。そういう布です。
はじめたとき、彼女は25歳でした。以来ずっと、ひとりのデザイナーの手で柄が描かれています。住んでいるのはオスロ・フィヨルドに浮かぶ島。今も、そこで絵を描いているそうです。
ティルダは布だけではありません。人形やリボン、ボタン、そして手芸の本。本は18か国語以上に訳されて、世界じゅうで読まれています。北欧の布というと、まず大きな柄を思い浮かべる方が多いと思うのですが、この人の描く北欧は、もっと小さくて、もっと物語のほうへ寄っています。
同じ北欧の生地でも、ティルダはマリメッコとほとんど反対のことをしています。マリメッコが、花ひとつを腕くらいの大きさに描いて、はっきりした色で刷るのに対して、ティルダの花は指の先ほど。色は、少しくすませたところで止めてあります。
布の巾もちがいます。マリメッコの生地が約145cm巾なのに対して、ティルダは約110cm巾。素材は綿100%で、うすすぎず、やわらかく、針がすっと通ります。カーテンのような大物より、手のひらに乗るものを作るための布です。
だからうちでは、この二つを別の棚に置いています。どちらが上ということではなくて、作りたいものが最初から違うからです。
ティルダの生地は、年に何度か「コレクション」という形で届きます。Quilt Collection、Blue Collection……。ひとつのコレクションの中に、同じ空気をまとった柄が何枚もあって、さらにその柄ごとに色ちがいがあります。
だから柄の名前で探そうとすると、なかなかたどり着けません。ソングバード、フローラ、ドロシー、ブッシュブルーム。名前を覚えなくても大丈夫です。ティルダは、色から入るほうが早い。作りたいものの色が決まっていれば、そこから見ていくと自分の一枚に当たります。
柄が細かいので、小さく裁ってもちゃんと柄が見えます。ポーチ、巾着、がま口、ブックカバー。パッチワークのピースにしても、カルトナージュの箱に貼っても、絵が途中で切れません。ここが大きな柄の生地とはっきり違うところです。
色ちがいをすこしずつ買って並べるのも、この布らしい楽しみ方だと思います。同じコレクションの中なら、色が違っても不思議とけんかしません。もともと、そろえて使うように描かれた布だからです。
生地は10cm単位。数量「1」で10cm、「5」で50cmというふうに、必要なぶんだけ続けてお切りします。小物ひとつなら、30cmもあれば足ります。
ノルウェーの島でひとりの人が描いた、指の先ほどの花。それが海をわたって、徳島の店の棚に、色ちがいで並んでいます。近くで見ないと良さの出ない布なので、写真ではどうしても伝えきれないところがあります。お店に寄られることがあれば、ぜひ手に取ってみてください。